麻酔科開設の思い

麻酔が怖いから、治療をやめるをゼロにしたい。

「高齢だから麻酔に耐えられないかもしれない」「心臓が悪いから手術は無理だと言われた」 そんな言葉に、飼い主様はどれほど心を痛めてこられたでしょうか。確かに動物の麻酔にはリスクが伴います。しかし、適切な術前評価、五感と機械によるモニタリングなど、高度な専門知識があれば、そのリスクは最小限に抑えることが可能です。 私たちは、これまで「難しい」とされてきたケースにも真摯に向き合い、大切な家族との幸せな時間を1日でも長く守るために、滋賀県初となる動物麻酔科を開設いたしました。

動物の麻酔のリスクと重要性

麻酔は単なる 「眠らせる処置」 ではありません。

言葉で「苦しい」「痛い」と伝えられない動物たちにとって、麻酔管理は、手術中にその子の「命の小さなサイン」を片時も離さず見守り続ける、とても大切な処置です。

「小さな変化」を、決して見逃さないために

麻酔中、動物の体は刻一刻と変化します。血圧が少し下がったり、呼吸が浅くなったり……。私たちは、呼吸状態やモニターに映る心拍や体温などの数値を、その子の「声」だと思って見守ります。常に最適な状態へ導くことで、体に負担をかけない安全な時間を守り抜きます。

「痛み」から、心と体を守ってあげたい

痛みは、体にとって大きなストレスになり、回復を遅らせる原因にもなります。私たちは、手術中の痛みはもちろん、目が覚めた後もその子が穏やかに過ごせるよう、局所麻酔や複数の痛み止めを組み合わせた「痛みの少ないケア(マルチモーダル鎮痛)」を徹底しています。

その子だけの「オーダーメイド」の優しさを

犬種や猫種、年齢、そして抱えている持病……。同じ体の子は一人もいません。だからこそ、その日のその子のコンディションを深く理解し、最も安全で体に優しい薬剤の組み合わせを選びます。教科書通りの麻酔ではなく、その子のためだけの「オーダーメイドの麻酔」をお約束します。

草津犬猫病院の麻酔科が選ばれる理由

滋賀県では希少な「麻酔科」という専門性

多くの動物病院では執刀医が麻酔管理を兼任しますが、当院では麻酔に特化した視点を持つ獣医師がチームに加わります。「手術に集中する医師」と「命を守る麻酔担当医」のダブルチェック体制が、圧倒的な安心感を生みます。

どんな高度な技術が求められるのか

麻酔は「薬を打って眠らせる」という単純なものではありません。手術中の数十分、あるいは数時間、動物の体内で起こる複雑な変化をコントロールし続ける。そこには、研ぎ澄まされた観察眼と、迷いのない判断技術が求められます。

循環動態の維持

麻酔をかけると、多くの動物で血圧が低下します。これは重要な臓器(脳や腎臓など)へ血液が届かなくなるリスクを意味します。 私たちは、ただ血圧計を眺めるのではありません。心臓のポンプ機能や血管の状態をリアルタイムで予測し、必要に応じて昇圧剤等を使用します。常に安定した血流を維持し続けることで、手術後の腎不全などの合併症を未然に防ぎます。

呼吸管理

麻酔中は自発的な呼吸が弱くなることがあります。私たちは、専用の気管チューブを用いて確実な気道を確保し、人工呼吸器(ベンチレーター)を駆使して管理します。 その子の肺の状態に合わせて、送り込む酸素の量や呼吸回数を調整し、血液中の酸素濃度を理想的な状態に保ち続け、体へのダメージを最小限に抑えます。

緊急時への即応力

「もしも」の事態は、起きてから考えるのでは遅すぎます。私たちは手術前に、その子のリスクに合わせた「緊急時シミュレーション」を必ず行います。 万が一、心拍数や血圧に急激な変動があった場合でも、迷うことなく即座に蘇生処置や薬剤投与が行える体制を整えています。「何があっても、この子が目を開けるまで守り抜く」という覚悟。それが、私たちの技術の根底にあります。

麻酔の「引き際」を見極める覚醒技術

実は、麻酔において最も神経を使うのが「目覚める瞬間(覚醒時)」です。急激に意識が戻るとパニックを起こし、呼吸が不安定なまま目覚めることがあります。私たちは、麻酔薬の濃度を段階的に下げながら、その子が「お昼寝から覚めた」かのような穏やかな目覚めを迎えられるよう、細やかな声かけと薬剤調整を行います。

局所麻酔を使った痛みのケア

当院では、手術中や手術後の痛みをやわらげるために、局所麻酔を積極的に使用しています。局所麻酔を使うことで手術する部分の痛みを直接抑えることができ、麻酔薬の量を減らしたり、術後も穏やかに過ごせることが多くなります。

麻酔の手順

01

診察・カウンセリング

まずは、これまでの病歴や体調の変化、飼い主様が感じている不安をじっくり伺います。お話をもとに、その子の年齢や性格、病気の種類に合わせた「オーダーメイドの麻酔計画」を立て、メリットとリスクを丁寧にご説明します。

02

術前検査

血液検査、レントゲン、超音波検査などを通じて、心臓や肝臓、腎臓などの機能を詳しく調べます。麻酔薬を分解・排泄できる体力が十分にあるかを確認し、目に見えないリスクを最小限に抑えるための重要なステップです。

03

麻酔前投薬

手術室に入る前に、鎮静薬や鎮痛薬を投与します。これは動物たちの不安や恐怖を和らげるだけでなく、後に使うメインの麻酔薬の量を減らすこと(減薬)につながり、結果として内臓への負担を軽くすることができます。

04

麻酔導入・気管挿管

静脈からゆっくりと麻酔薬を入れ、眠りについたところで気管に細いチューブを通します(挿管)。これにより、手術中も常に100%近い酸素と麻酔ガスを確実に送り込むことができ、迅速に人工呼吸に切り替えられる安全な状態を作ります。

05

局所麻酔処置

実際に手術を始める前に脊髄や神経の周辺に局所麻酔薬を投与していきます。これにより術中の痛みを大幅に軽減できるだけでなく、全身麻酔の量を削減することができより安全な麻酔管理が可能となります。また術直後の痛みの軽減にも貢献します。

06

モニタリング管理

手術中は、獣医師または専任スタッフがつきっきりでバイタルサイン(血圧、心拍数、呼吸状態、体温、麻酔濃度など)を監視します。数値のわずかな揺らぎも見逃さず、必要に応じて薬剤を投与したりすることで、安定した状態を維持します。

07

覚醒・リカバリー

手術が終わったからといって、私たちの仕事は終わりではありません。麻酔薬を切り、意識が戻るまで「大丈夫だよ」と優しく声をかけながら見守ります。完全に自分で呼吸ができ、状態が安定するまで必要に応じてICU(集中治療室)などで手厚くケアし、痛みがないかを確認した上でお返しします。

麻酔に注意が必要なケース

CASE 01

短頭種 (パグ、ブルドッグなど)

気道が狭いため、慎重な呼吸管理が必要。術後の覚醒時も注意深く観察します。

CASE 02

高齢動物

代謝機能が低下しているシニア期のペット。事前の血液検査で各臓器の状態をしっかり把握します。

CASE 03

循環器疾患 (心臓病など)

心機能が落ちている場合は麻酔の負担が大きいため、個体別に最適な麻酔薬を選択します。

麻酔科アドバイザー

麻酔科担当:堀江 遼

動物たちの苦痛やご家族の不安が少しでも取り除けるよう、日々勉強と経験を積み、誠意と熱意を持って診療させてただきます。

麻酔科アドバイザー:石塚友人

「麻酔は手術の一部ではなく、動物の命を守るための独立した柱です。飼い主様の『不安』を『安心』に変えられるよう、全力を尽くします。」
日本大学生物資源科学部獣医学科
酪農学園大学大学院獣医学研究科博士課程(獣医麻酔学)
ネオベッツVRセンター総合診療医・麻酔科医として勤務
北海道大学附属動物医療センター特任助教(麻酔集中治療)
VES合同会社
アネス動物病院